Vol.2 前編|AI時代のデザインとは? AIは、デザインの何を変え、何を変えないのか

Design note

2026.10.7

生成AIの進化によって、デザインは以前よりもずっと身近なものになりました。
画像生成、コピー案作成、UIラフ、資料構成、Web構成案など、これまで専門スキルと時間を要していたデザイン業務の一部は、短時間で試せるようになっています。

一方で、アウトプットをつくれることと、企業としてデザインすることは同じではありません。

そのデザインが事業目的に合っているか、ブランドを損なわないか、ユーザーに正しく届くか、社会に出してよいものか、そして誰が判断し誰が責任を持つのか。
こうした問いを重ねながら、選択肢を事業やブランドの価値に変えていくこと。AIを組み込みながら、人と組織がそのプロセス全体を動かしていくこと。それが、AI時代のデザインです。

前編では、生成AIによってデザインの現場がどう変わっているのかを整理しながら、AIが担える領域と、人と組織が担うべき領域を考えます。

この記事でわかること

1. AIでデザインは何ができるようになったのか ―生成AIが変えたデザインの現在地

| 結論:AIが担うのは、案を出す・広げる・試すことまで。事業の目的を定め、意味を判断し、責任を持って形にすることは、これまでと変わらず人と組織の役割である。

AIによって、デザイン制作の入口は大きく広がりました。
グラフィック、Web、UI、プロダクト、サービス、ブランディングまで、AIは多くの領域で初期案やたたき台を出せるようになっています。
たとえば、画像生成、レイアウト案、UIモック、コピー、プロトタイプ、資料構成、リサーチ整理まで、幅広いデザイン業務を支援し、以前よりもずっと速く試せるようになりました。

でも、AIが生成するものは、あくまで選択肢です。企業にとって意味のあるデザインができることとは同じではありません。

AIが担うのは、案を出すこと、整理すること、展開すること、試作することで、事業の目的を定める、ユーザーの本質的な課題を見極める、どの顧客にどう届けるか判断する、ブランドとして何を選ぶべきか決めることは、引き続き、人や組織の役割として残ります。

McKinseyの2025年調査で、AIツールの利用は広がっているものの、多くの組織ではワークフローや業務プロセスへの統合が十分ではなく、企業レベルの成果創出にはまだ課題があるとされています。
(ソース:https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai)

デザインにおいても同様で、AIツールを導入することがゴールではなく、AIをどの工程に組み込み、どこで人間が判断するのかを設計することが重要です。

■領域別に見るAI活用

領域

AIでできること

注意すべきこと

グラフィック

バナー、SNS画像、ポスター案、画像生成

類似表現、著作権、ブランド不一致

Web

LP構成案、ワイヤー、レイアウト、コード生成

情報設計、CV設計、SEO/AEO構造

UI/UX

画面案、ユーザーフロー、プロトタイプ

実ユーザー理解、検証不足

プロダクト

形状案、素材イメージ、利用シーン

製造要件、安全性、身体性

サービス

ジャーニー案、体験シナリオ、サービスフロー

現場運用、組織体制

ブランド

ロゴ案、トーン案、コピー案

企業の意思、一貫性、人格

AIは、案を生み出し、比較し、試すまでの速度を大きく高めます。一方で、事業の目的やユーザーの実態、ブランドの一貫性、社会に出すうえでの責任まで、自動的に判断してくれるわけではありません。

企業にとって重要なのは、そのデザインを何のためにつくり、何を選び、どのように使うのかを決めることです。その方向を定め、最終的な判断と責任を担うのは、人と組織です。

2.デザイナーはAIをどう活用しているのか ―デザインの現場で進むAI活用のリアル

| 結論:デザイナーはAIを代替物としてではなく、思考を広げる壁打ち相手として使い、その往復のなかで自分の判断を磨いている。

最近、デザイン会社の間でも「AIをどう活用しているか」「クリエイティブとAIはどう向き合うべきか」という話をよく耳にするようになりました。デザインの現場では、実際にどのような使われ方をしているのでしょうか。

Figmaの2025年AIレポートは、7か国2,500人のプロダクトビルダーを対象に、デザイナーや開発者がAIをどう認識し、業務に統合しているかを調査しています。AIが、一部の先進的な試みにとどまらず、デザインやプロダクトづくりの現場に組み込まれ始めていることがわかります。
(ソース:https://www.figma.com/ja-jp/reports/ai-2025/)

デザイナーはAIを、リサーチ整理、アイデア発散、ムードボード作成、ラフ案、プロトタイピング、コピー案などに活用しています。AIはデザイナーの代替というより、考える前の準備、考えを広げるための壁打ち、試作を速くする補助線として使われています。つまり、ゼロから手を動かし始める前の“助走”をつくる存在です。
ただし、デザインの起点は、AIに指示を出すことではありません。人の行動を観察し、話を聴き、まだ言葉になっていない違和感を捉えながら、どこに着目し、何を問うべきかを定めていきます。

向き合うべき課題が定まると、AIは探索の速度と幅を大きく広げます。初期の案やバリエーションを数多く生み出し、比較し、短時間で試すことは、AIが得意とする領域です。
その先には人の判断が必要な領域があります。どの案がブランドにふさわしいか。ユーザーにとって本当に価値のある体験になっているか。社会に届けたときに、企業らしさや独自性として機能するか。こうした点を見極め、目的や文脈に沿ったデザインへ磨き上げていくことが、デザイナーの役割です。

■デザイナーのAI活用例

工程

活用例

リサーチ

インタビュー要約、競合整理、論点抽出

発想

コンセプト案、ネーミング案、コピー案

ビジュアル探索

ムードボード、キービジュアル案、トーン比較

UI/UX

画面案、ユーザーフロー、UI文言

プロトタイピング

サービスシナリオ、簡易モック、検証用ラフ

レビュー

アクセシビリティ確認、表現の抜け漏れ確認

AIは、デザイナーの業務の一部を担い、手数を増やし、試行回数を増やします。これからのデザイナーに求められるのは、AIが出したもの見極め、本当に見るべき問いを見つけ、目的や文脈に合わせて磨き上げていく力です。

3.デザインの意思決定はどこまで社内で完結できるか ―内製と外部依頼の境界線

| 結論:内製と外部依頼を分けるのは「作れるかどうか」ではなく「どの判断に責任が伴うか」。この境界線は、社内に専門のデザイン部門があるかどうかで変わる。

AIの登場によって、自社でデザインを行う範囲は広がっています。
資料作成、SNS画像、コピー案、簡易なLP構成など——目的が明確で、品質基準も決まっていて、影響範囲が小さいものは、デザイン部門がなくても、担当者がAIを使って十分に内製できるようになっています。

社内にデザイン部門がある場合は、この線引きはさらに社内側に寄り、ブランドガイドラインの適用や、UI/UXの検証といった専門性の高い判断も、社内のデザイナーがAIを活用しながら担っていきます。
ですが、内製できることが増えたからといって、すべてを自社で完結すべきとは限りません。

事業の方向性を左右するもの、ブランドの根幹に関わるもの、新規事業のように前例がないもの。これらは、社内にデザイン部門があってもなくても、外部の専門性を入れた方がよい場面があります。
外の目を必要とする理由は、社内の目線だけでは、自分たちの前提や思い込みに気づきにくいからです。

■判断表(参考レベル)

判断軸

内製向き

外部支援向き

目的

明確

曖昧、再定義が必要

影響範囲

小さい

事業・ブランド・組織に関わる

品質基準

決まっている

これから決める

リスク

低い

法務・ブランド・社会的影響がある

合意形成

少人数

多部署・経営層が関わる

領域

SNS画像、バナー展開、資料のたたき台、コピー案、簡易なLP構成、社内向け説明資料、ラフイメージ、既存フォーマットの展開 など

ブランド戦略、新規事業・サービス設計、UXリサーチ、プロダクトデザイン、コンセプト設計、デザインシステム、経営・組織に関わるデザイン、社内外の合意形成 など

内製化とは「外部に頼まないこと」ではありません。社内にデザイン部門があってもなくても、自分たちで完結してよい範囲を、はっきり線引きしておくことです。どこを外部のデザイン会社と組むべきかは、8章に記載しています。

4. AI時代のブランディングとは何か ―AIが増やす表現と、変わらない企業の意思

| 結論:ブランディングとは表現を量産することではなく、「その企業である必然性」を、事業・体験・組織・コミュニケーションを貫いて保ち続けること。AIが表現を増やすほど、一貫性の重みは増していく。

AIは、ロゴやコピー、ビジュアルトーンなどの要素を生成できますが、ブランディングは見た目をつくることだけではありません。商品やサービス、顧客体験、採用、組織文化、コミュニケーションのすべてを通じて、企業活動全体でブランドを体現していくことがブランディングです。

注意すべきなのは、表現を量産することでブランドの一貫性が薄れることです。各部署がそれぞれAIで画像やコピーをつくり始めると、見た目は整っていても、企業としての人格が少しずつばらけていく可能性があります。

ブランドに必要なのは、「その企業である必然性」です。

■AI時代のブランド課題
・AIで“それっぽい”ビジュアルが量産される
・部署ごとにトーンがばらつく
・企業らしさより、トレンド感が優先される
・ロゴや表現だけが先行し、ブランドの意思が入っていない

■社内で考えるべき問い
・自社ブランドの「らしさ」は言語化されているか
・AIに任せてよい表現と、任せてはいけない表現は何か
・ブランドトーンを誰が判断しているか
・各部署がAIで制作した場合、一貫性を保てるか

AIが表現を増やすほど、ブランドには判断基準が必要になります。そしてその基準は、単なるデザインルールではなく、企業がどうありたいかという経営の意思そのものです。

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