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  • Column

素材メーカーの開発者が挑む、新しい事業領域 ワークショップデザイン 

UACJ

アルミニウム——それは、軽くて、自由で、そして日常に溶け込んでいる素材。

この、身近な素材から、「新しい体験」が生まれました。

手を動かし、問いを立て、創造する——。

アルミニウム総合メーカー・株式会社UACJ とともに開発したワークショップツール「ワークショップの素™」は、アルミニウムという素材を使って、人と組織の“思考”や“関係性”を軽やかに 動かしていくものです。

素材メーカーとデザインという異なる立場と視点が出会い、「素材を売る」から「問いを立てる」へと視点を変えたとき、製造業の常識を越えるプロジェクトが生まれました。

素材からはじまる、体験のデザイン。

その現場には、どんな発見と挑戦、そして気づきがあったのか、開発に携わった皆さんにお話を伺いました。


話した人

黒崎 友仁 マーケティング・技術本部 R&D センター研究企画部 兼 経営戦略本部 新領域開発部
竹村 沙友理 経営戦略本部 新領域開発部 ワークショップの素PJ代表
平田 智彦 hyphenate ファウンダー 兼 Executive Producer
岡村 真弥 hyphenate アカウントマネージャー

UACJ 公式ホームページ:https://www.uacj.co.jp/index.htm

*以下アルミニウムはアルミと表現


「防災グッズが原点?」素材の未来はここから始まった
思わぬ入り口から広がった、素材開発の新たな可能性。

竹村:美しく、軽く、加工しやすく、しかも丈夫。アルミは、IT機器や自動車、家電など私たちの生活を支える場面で広く活躍していて、実はすごく魅力的な素材なんです。
でも、日常的に「アルミ」と言われて思い浮かぶのって……やっぱり“アルミホイル”ですよね。薄くて、安くて、使い捨て。どうしてもそのイメージが先行してしまうんです。

黒崎:そんな現状に一石を投じたのが、私たちが所属するR&D部門による“チャレンジ活動”でした。「アルミの可能性をもっと広く、深く知ってもらうために、自分たちの素材が持つ魅力を、これまでにない角度から届けられないか——。」

いろんな可能性を探る中で、私たちが着目したのが防災用途でした。熱伝導が良い点や保温性という機能とともに、軽くてコンパクトに畳める、しかも自在に形が変えられるという特徴を活かして、アルミホイルを災害時に“役立つ素材”としての新しい提案ができるんじゃないかと考えました。

早速、防災の展示会に出展し、お客様の反応を伺うとともに、災害時に使えるアルミでお皿やコップをつくる体験会も実施したんです。
そうしたら、皆さん上手にアルミホイルを操って作っているのです。想像以上に“触ること”を楽しんでいました。
その光景をみて、アルミホイルの“触感”や“動き”の面白さに気づいたんです。これって、工作用としても使えるかもしれないって。

平田:素材としての性能だけでなく、自在に形を変えられる扱いやすさや、手に取った感覚が印象に残る感じだよね。素材が文脈を変えて、アルミの感触が次の可能性を引き寄せていったんだね。

くしゅっ、ふわっ、ぐにゃっ——動く素材が生むワークの魔法
素材の柔らかさが、創造力のスイッチを押す。

平田:「この前、すごい作品を見たんですよ。」とある日UACJさんから連絡がありました。それが、箔屋スフィカさんという造形作家の作品でした。アルミを使ったドラゴン——これがもう、すごかった。

黒崎:初めてその作品を見たときは、本当に衝撃でした。アルミとアートとの親和性もさることながら、平田さんたちと面白いことが一緒にできるんじゃないかと思い、声をかけさせてもらいました。
そして、箔屋スフィカさん(https://www.instagram.com/a_f_hakuya89/)と平田さんを交えて話をする機会を持ちました。

平田:実演は想像を超えてたね。細かい鱗の一枚一枚まで、きちんと造形されていて。それでいて、ドラゴンが今にも動き出しそうな躍動感を持っていた。アルミのイメージをいい意味で裏切っていたよね。
アルミは、粘土のような可変性があり、ただの“工作”じゃない、素材のクリエイティブな可能性を感じました。

黒崎:そして、そのあと「ワークショップで使えるかもしれませんねっ」って平田さんから提案があったんです。

平田:僕たちは、お客様と新しい価値を生み出すとき、考える前の“準備運動”として、よく「手を動かすワーク」を取り入れています。
アルミホイルは、丸める、たたむ、折る、切る――自在に変形できる一方で、少し力を加えるだけで思い通りにはならない。その絶妙な柔らかさが、発想をほぐしてくれる。この素材のコントロールしきれない自由さが、僕たちの考え方と自然につながっていったんです。
誰かと一緒に手を動かしながら何かを作る場——その未来の風景が、ふっと見えた気がしました。

黒崎:その話をきいて、私たち開発者は思わず、「それ、めちゃくちゃ面白そうですね」っていう感じになりました。

平田:素材と、デザインと、創造性。全く違う領域が、思いがけないところでつながった瞬間だったよね。

アイデアは手から生まれる——自由な発想のしかけ方
“正解のない問い”と素材が出会うとき。

平田:僕が大学や大学院の客員教授になったタイミングでもあり、学校の授業やデザイン思考を展開した企業のワークショップで、何かにたとえて自己紹介するという比喩の効果を研究していたところでした。そこに、アルミホイルの特性を組み合わせられないかと考えたんです。

竹村:そのアイデアを聞いて、すぐに私たちのR&Dチームとhyphenateでプロトタイピングを始めました。
「動物にたとえると自分は何か?」という問いで形をつくって、自己紹介に使ってみたんです。

平田:実は、それがこのワークの最大の狙いなんです。正解がない問いだからこそ、人それぞれの“らしさ”が出てくる。しかも、動物にたとえることで自分を客観視できて、“自分ってどんな人間?”と、軽やかに話ができちゃうんです。

岡村:実際に、いろんな企業でも試してみたのですが、最初は「えーっ難しいなぁ」っという戸惑う声もでるんです。でも、アルミを触って、くしゃっと音がして、ちょっと形になっていくと——みんな夢中になって、気づいたら手が勝手に動いてる。思い思いに素材を動かすうちに、場の空気もどんどんやわらかくなっていくのを実感しました。

平田:たとえば僕は、ウミガメに例えて自己紹介をしています。
どんな環境でも、自分の意思で自由に泳いでいきたい。たとえそこに天敵がいたとしても。でも、ウミガメが陸ではスローなように、僕の初動もいつも遅めなんです(笑)。ただ、一度決めたことは、必ずやり遂げる。まるで「ウサギとカメ」のカメのように、確実にゴールにたどり着くタイプです。
自分の弱い部分もメタ認知できて、しかも人にもさらにと言えてしまう。

竹村:この“例え”と“素材”の組み合わせが、人の創造性や自己理解にどう影響を与えるのか中央大学院戦略経営研究科の教授にも監修してもらい、1年間かけて実証実験を重ねました。そして、このワークが年齢性別を問わず、創造性を起動させることに寄与できることがわかってきました。
体験をデザインする、“正解のない問い”を始められるワークになるとは思いもかけていませんでした。

「素材をつくる」から「体験をデザインする」へ―
ちょっと堅めな組織で、クリエイティブをどう育てたのか。

竹村:そうですね。ワークショップという“体験をデザインする設計”という考え方は、社内ではまだ馴染みの薄い世界だったので、当初は疑問の声も、当然のように聞こえてきました。なので、私たちR&D部門が中心になって、まずは小さく実証実験から始めました。

でも、試験的に行った社内の体験会では、「これ、意外と盛り上がるな!」「すごく楽しい!」などメンバーの反応が良かったんです。R&D部門の“チャレンジ活動”の取り組みとして進めていたのですが、中央大学大学院ビジネススクールでの国内・海外それぞれの実施を通じて得られた手応え、hyphenateのクライアント企業での反応、そして社内メンバーからの声も後押しとなり、自社の社内ベンチャー制度“UACJ Innovators”にエントリーすることを決断しました。

この“UACJ Innovators”は、新事業となる可能性のある事業プランやアイデアを、社員から広く募集する2021年度に開始した新領域創出 のための制度です。(https://www.uacj.co.jp/release/20240528.htm)
社内ベンチャー制度では、事業性を問われるわけですから、顧客と課題を起点とした事業モデルや提案資料の完成度を高め、幹部層へのプレゼンに向けて切磋琢磨しました。

「素材が人の発想や関係性を動かす。これは、新しい価値になる。」

その確信が説明の言葉を磨き、壁にぶつかりながらも、少しずつその意義を伝えていきました。
実際に幹部層に体験してもらい、ワークに真剣に向き合う中で彼らの表情が変わっていくところを見て大きな手ごたえを感じました。そしてこの「ワークショップの素™」は、社内ベンチャー制度における第3弾の事業として採択されました。

竹村:いえ、いえ。私は開発者で、事業を創るという経験はありませんでした。なので、社内ベンチャー制度へのチャレンジはもちろん大変ではありましたが、仲間の多大な協力もあり進められました。
そもそも、この開発を進めていく中で、私は「デザイン=スタイリング」という理解でした。“体験をデザインする”という考え方には、最初ピンと来ていなかったんです。でも、hyphenateと一緒に、手を動かしながら実際にツールをつくり、社内で伝えていく中で、その意味がどんどんと腑に落ちていきました。

黒崎:私も多少デザイン思考をかじっていましたが、頭でわかっていたものが、ようやく身体感覚としてつかめましたよ。

岡村:正解がないから、どんどんプロトタイピングをして、ああでもないこうでもないと、アイデアを洗練していく。そのプロセス自体がまさに「体験のデザイン」だったんですよね。

竹村;はい。各テーマでなんどもプロトタイピングを繰り返しながら、実際の現場で活用されるワークショップツールを開発しました。20~30個のアイデアから、5つのシーンを想定して「ICE BREAK ZOO(アイスブレイクズー)」「AL TOWER(アルタワー)」「PROTOTYPING ZOO(プロトタイピングズー)」「The DEN-SAKU(ザデンサク)」という4種のツールに落とし込みました。

【5つのシーン】
|  参加者の自己開示と内省、メタ認知を促す
|  社員の「自律性」「創造的思考」を育てる
|  チームの関係性を深める
|  組織やプロジェクトにおける自身の役割と責任が明確にする
|  新規事業や価値の種を生みだす

どれも、アルミの特性である「変形性」や「触感」を活かして、人と人の間に“問い”を生み出す場をつくり、創造性を発動させるものです。

黒崎:社内ベンチャー制度という仕組みが背中を押してくれましたし、素材メーカーだからこそ、素材から価値を再発明するという挑戦ができたと思っています。

ワークショップが会社を動かす——小さな一歩が大きな波へ
新しい事業が、企業文化を変えていく。

岡村:はい。私たちのお客様の企業では、ブランディングや商品・サービス開発、新入社員研修など幅広いシーンで使用しています。大学や教育機関の授業にも広がっていて、創造を起動させたり、共創がはじまるツールとして活用しています。

竹村:社内では、各種研修や社員座談会、パーパスを浸透させる取り組みなど、いろんな場面で使っています。
ツールの一つの「AL TOWER」は、アルミホイルを使って、どこまで高くアルミのタワーをつくれるかというワークです。①チームで検討する、②実際にやってみる、③もっと高くする方法を考える、④改善して再挑戦するーというものです。面白いのは、「これが正解だ」と思っていたやり方が、意外とうまくいかないことがあるんですよね。そこで自然と、メンバー同士が意見を出し合ったり、新しい視点で見直したりする。良い雰囲気のなかで、予測、実験、検証、再実験を体験できることは、貴重な学びになります。

社内で「AL TOWER選手権」と題したイベントを実施すると、みんな本気で盛り上がってくれます。参加チームの中で優勝する、これまでの記録を更新するという明確な目標があることで、さらに熱気が高まります。
素材を通じて対話が生まれるアプローチが、想像以上にポジティブに受け入れられていると感じますね。

岡村:しかも、立場や年次に関係なく、自然と役割が入れ替わったりするんですよ。例えば、上司が引っ張ってもうまくいかなかった時に、若手がリードして成功することもある。そうやってチームの関係性が変わっていくのも、このワークの魅力です。

竹村:私はいま、「ワークショップの素™」の事業責任者をしながら、新しい開発案件にも挑んでいます。

この案件も前例のない領域ですが、ここに課題を持っているお客様がいることは確信しています。「想い」をちゃんと伝えて、共感してくれる仲間と一緒に動いていけるようになってきました。ワークショップの素™に携わっていなかったら、このチャレンジをすること自体、諦めていたかもしれません。

デザインの本質に出会えたことで、私にとって“ものづくり”の意味が変わったんです。

黒崎:本当にそうですね。このプロジェクトを通じて、組織の空気を変え、社員の意識を変え、いま、新しい開発や事業に向かう力になっています。

プロジェクトが動き出した当初、平田さんから「君たちが、アルミの可能性を狭めているんじゃないか?」と言われ、私たちはハッとさせられたのを覚えています。hyphenateの皆さんが私たちと同じくらい素材を信じて、未来を見てくれていたんだとわかって——それがすごく嬉しかったし、自分たちのスイッチが入りました。

このプロジェクトは、アルミという素材を中心に、そこに込められた“人の想い”によって動き出したんですね。

それぞれの立場から見つめた、プロジェクトと思い描く未来
一人ひとりの気づきが、次の未来をかたちづくっていく。

平田:アルミという素材には、もともと美しさや手ざわり、光の反射など、多くの魅力があります。でも、それを“体験”としてデザインするなかで、ふと思ったんです。「あ、この素材が新しい世界を連れてきてくれる」っと。

ワークショップの中で、創造のスイッチが入る瞬間があります。人が笑って、話し始め、思いつきに拍車がかかっていく。
その光景を見るたびに、このプロジェクトをやってよかったと心から思います。

デザインというアプローチは、まだ企業の中で浸透しづらい面もあります。でも今こそ、「VUCA時代の合意形成戦略」としてのデザインが求められていると思っています。
その未来を、素材とともに実装できたのは、私たちにとっても大きな一歩でした。

岡村:このプロジェクトを通じて改めて実感したのは、「正解がない」ことの強さです。まずやってみて、そして本音で意見を出し合い、また試す。その繰り返しが、アイデアをどんどん深めてくれました。

私たちデザイン会社だけでは、ここまで来られませんでした。UACJの皆さんが、アルミの特性や加工技術について惜しみなく知見を共有してくれたからこそ、創造力と専門知が掛け合わさり、まさに“オープンイノベーション”が起きたと感じています。

こんなにシンプルな素材が、場を熱くし、対話を生むツールになるなんて、その可能性を形にできたことが、とても嬉しいです。

黒崎:材料って、基本は表に出ない“見えないもの”です。でも、アルミは“見せる素材”にもなれると、このプロジェクトで気づきました。
企業の中で新しいことに挑戦するのは簡単じゃない。だけど、うちの会社は、本当にチャレンジができる土壌を用意してくれています。このワークショップもそう。仲間とともに、社会に貢献できる新しい形をつくれました。

今、さまざまな開発プロジェクトが進んでいます。前例のないことも多く、でも「やってみたい」と思う気持ちを、会社も仲間も受け止めてくれます。
そんなすばらしい環境を活かして、孫の時代まで“この会社があってよかった”と思ってもらえる仕事をしたいです。

竹村:多くの人にとって、素材は“目立たない存在”かもしれません。でも、素材が持つ力、可能性、そして美しさがあります。
「素材って面白い」「素材ってかっこいい」と思ってもらえる体験を開発していけたらと思っています。

“使われる素材”から、“語られる素材”へ。
アルミだけでなく他の金属、樹脂、塗料などさまざまな素材の価値も、もっと引き出していけたらと思っています。

貴重なお話をいただき、ありがとうございました。


アルミという、一見シンプルな素材から始まったこのプロジェクト。

それはいつしか、問いを生み出す装置となり、人と人をつなぐ共創の場をつくり出しました。

「素材の価値とは何か」
「体験をどうデザインするか」
「誰のために創るのか」

創造と実装のあいだで、私たちは何度も立ち止まり、考え、試しながら進んできました。その時間が、思考を耕し、組織を動かし、自分たち自身の視野を変えていったように思います。

このプロジェクトのプロセスを通して、皆さまの現場での気づきやヒントになれば嬉しいです。

Edit : 大塚暁子( hyphenate )

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